新しい時代の幕開けに。誕生、NuLAND
合同会社RANAOS(ラナオス)


ランドセルを通じて、選択肢のある未来を増やしたい 

代表・岡本直子インタビュー


軽く柔らかな布製ランドセル、「NuLAND(ニューランド)」。従来のあたりまえにとらわれない自由な発想と、「ランドセルをもっと軽く」という思いは、社会の大きなうねりとなり、業界に新しい価値観をももたらしました。その産みの親であり、RANAOS(ラナオス)代表を務める岡本直子に、開発への思いを聞きました。


代表・岡本直子

NuLAND公式サイトはこちら:https://nuland.jp


猛暑にゲリラ豪雨、たくさんの荷物。現代の小学生事情にびっくり


きっかけは、息子の小学校入学です。2020年、コロナ禍で2ヶ月ほど遅れて一年生がスタートし、本格的に学校生活が始まったのはすっかり暑い時期でした。猛暑の中、重いランドセルを背負い、帰宅後は背中まで汗びっしょり。2日連続でゲリラ豪雨に遭い、ずぶ濡れにしたこともありました。うちのランドセルは祖母に贈ってもらった大切なお気に入り。でも、持ち物は想像以上に多く、入りきらない物で両手はいつもふさがった状態でした。


NuLAND誕生ストーリー全12作


そんなとき、近所のお子さんが普通のリュックで通っているのを見かけました。そこは帰国子女のご家庭で、日本のランドセル文化になじみがなかったのかもしれません。「なんだ、これで良かったんだ……!」と、固定概念がくつがえる思いでした。リュックなら軽くて大容量ですし、アウトドア製品なら水にも強そうです。そこで、通学用のリュックを探すことに。でもサイズや形、デザイン、防水・撥水性、価格……どんなに探しても、すべてにおいてしっくりくるものは見つかりませんでした。



親も子も理想的な「ランドセルみたいな布製リュック」を作ろう


当時、通学用リュックはいくつか出ていましたが、「ランドセルのような形をしたリュック」「ランドセルの機能を踏襲したリュック」は、市場にまったくなかったのです。ママ向けwebメディアに携わっていたこともあり、良いものが見つかったらそこでも取り扱おうと思っていました。でも、見つからない。それなら作る……?そこでまずは現状を把握しようと、「ラン軽プロジェクト」を立ち上げ、のべ8000人以上の保護者や小学生からランドセルについてとことんヒアリングしました。

いまの小学生はとにかく荷物が多いです。タブレットや水筒も当たり前になりましたし、学童通いの子はお弁当が加わることも。置き勉スタイルが少しずつ浸透してきましたが、地域ごとに差は大きく、最近では充電のためにタブレットを毎日持ち帰るというケースも聞いています。鍵やパスケース、GPSタグ、携帯電話といった貴重品を持ち歩くなど、ご家庭によって荷物はさまざまです。


大量の荷物が入るように設計


親と子ども、それぞれの視点を知るうちに、「軽さ」「大容量」「中身の出しやすさ」「丈夫さ」など、たくさんのキーワードが見えてきました。これを形にできれば、みんなが望んでいた新しいものが生まれるに違いない。「これからのランドセルを作る」という気持ちは、さらに高まりました。

幸いにも伊藤忠商事(株)が展開する「RENUⓇ(レニュー)」という循環型リサイクルポリエステル生地を使えることとなり、コンセプトに環境配慮という視点も加わりました。これも大きな力となり、実際にランドセル作りがスタートしたのです。



毎日ランドセルを背負う、子どもたちの声を反映させて


何度もサンプルを仕上げてもらい、そのたびに小学生の子をもつ親御さんと意見を交わし、低学年から高学年まで、いろいろな年齢の子どもたちにも実際に意見をもらいました。


実際に開発を支えてくれた、たくさんのNuLANDキッズたち


たとえばNuLANDの大きな特徴である「ファスナーでフルオープンになる」という機能。これは、現役小学生の親御さんたちから「(今の形状だと)中がブラックホールすぎる。奥から何が出てくるかわからない(笑)」という経験者ならではのユニークな意見が飛び出したことで誕生しました。


しかし当初の設計はフルオープンになるものの、従来のランドセルのように自立させ、上部だけを開けてものを出し入れすることはできません。そこでサードサンプルの段階で高学年の子に意見をきいたところ、「チャイムが鳴ったら、教科書をすぐにしまって少しでも早く教室を出たい。急いでいる時はチャックを全部開けなくても、ものが取り出せるほうがいい」と、子どもならではの意見がでました。そこで両方の意見を取り入れた形で「フルオープンかつ、横起きでも立てたままの上部からでも、どちらでも出し入れもできる」という現在の2WAYスタイルが生まれました。みんなで「いまの自分たちが使いたいランドセル」を作り上げていったのです。


ファスナーでフルオープンになるのが大きな特徴



伝統的な「ランドセルらしさ」と「新しさ」を両立


ディレクションには同じ小学生の子をもつ、アートディレクターのえぐちりかさんが力を貸してくださいました。そのなかで、「ランドセルらしいフォルム」を大切にしたいというのは当初から出ていたことです。小学校入学、そしてランドセルの購入というのはワクワクする大きなイベントですよね。これから始まる学校生活に思いを馳せて、背負いやすさはもちろん、色やディテールも吟味しながら、より良いものを選ぼうと考えるのではないでしょうか。長く愛着をもって使っていただくためにも、機能と同じくらい、デザインは大切な要素です。


布製でありながらランドセル特有の丸みを帯びたフォルム


容量やポケットの数といったところだけでなく、縫い目の場所や微妙なシルエット、さらにはイメージビジュアルに至るまで、小さな部分も妥協せず「これがベスト」を重ねながらNuLANDは生まれています。



子どもたちに知ってほしい、「未来につながる製品」
循環型経済に貢献するNuLANDをイメージ


機能とデザインに加えて、欠かせない大きな柱が、環境への配慮です。SDG。日本では、機能やデザインに注目することはあっても、購入時にそこまで考える人はまだまだ少ないように思います。

次世代のランドセルをつくるなら、地球にやさしい環境配慮型の素材を使うと最初から決めていました。最終的に古着や工場の生産時に残った生地(残反)を原料とした、繊維業界の新しいロールモデルを目指す「RENU ®」との出合いが、NuLANDを理想のかたちへと推し進めてくれたのです。

今では、NuLANDはRENUⓇの公式パートナーとなっています。



実際に発売してわかった、NuLANDができる社会貢献


NuLANDは、このようにして、これまでになかった新しいランドセルとして2021年3月に誕生しました。今後、どのように成長していくべきか。その答えはユーザーであるお客さまのご意見にあると考えています。ありがたいことに応援くださるお客さまから、これまでたくさんのお声を頂戴し、実際に改善につながりました。「小柄な子は肩ベルトがずり落ちやすい」というお声から、すぐにチェストベルトを追加販売したことも、そのひとつです。

実際に使った子どもたちは「軽い」ことも喜んでくれますが、「柔らかいところが好き」と教えてくれました。NuLANDは窮屈さを感じないそうなのです。ランドセルを布で作るという常識をくつがえす取り組みが、「柔らかさ」「締め付けない」という大事なニーズに気づかせてくれました。


背中側は全面メッシュで、暑い夏には効果的

肩ベルトの感触も子ども達には大切な部分




これまでの「あたりまえ」を変えた、新しい価値観



グッドデザイン賞2022受賞


NuLANDは、販売から間もなく、多くのインフルエンサーや新聞記者、TVプロデューサーの現役小学生の親御さんたちにご賛同いただき、SNSやテレビ、新聞とさまざまなメディアで話題となりました。2年目となる2022年には、「フラップが外れる」というランドセルとリュックの2WAYデザインとしたことで、素材もサスティナブル、用途としてもサスティナブルを提案しています。小学校卒業=ランドセルの破棄ではなく、その先があるランドセルとなったのです。それらのことが総合的に評価され「グッドデザイン賞2022」の受賞、さらには日本最大級のクリエイティブアワードACC2022においても「デザイン部門」のシルバー賞受賞いたしました。

いずれも、新しい価値観であり、社会の固定概念に変革をもたらしたコンセプトだという点を高く評価いただき、うれしい受賞となりました。



ランドセルを通過点に、選択肢のある新しい未来を


この秋、新たに「NuLAND 代官山サロン」がオープンしました。完全予約制、1組のみのプライベートサロンで、靴を脱いで上がるスタイルです。場所も代官山駅から直結ですので、人混みが苦手なお子さんや赤ちゃん連れの方などにも、お家のような感覚でゆっくりご覧いただけます。


NuLAND 代官山の風景

プライベートな空間で、スタッフの説明を受けながらリラックスして選べます。


始まりは、自分の息子が大変そうな様子をなんとかしたいという、一母親としての思いでした。息子の登下校が安全で、少しでも楽しい時間になってほしい。それが結果的に、息子のまわりの友達、さらに全国の小学生へと広がっていったことをとてもうれしく感じています。NuLANDが生まれたことで、ランドセルの重さ問題が注目され、「ラン軽プロジェクト」も一気に認知度が高まりました。

従来の革のランドセルと比較して、良し悪しをつけたいわけではありません。革製を選ぶ子、布製を選ぶ子、その視点や考え方はそれぞれ。体の大きさや体力、好み、通学の距離や持ち物はみんな違いますし、違っていて当然です。みんなが同じものを持つのではなく、自分に合ったもの、いいと思ったものを自信をもって選んでいけたらいいですよね。

小学校は、子どもが自分の足で歩いていく初めての場所。これから進んでいく社会という道の、最初の入り口です。ランドセルをきっかけに、伝えたいのは「決められた枠や固定概念にとらわれない」「選択肢はひとつだけじゃない」というメッセージです。多様性を認め合える、そんな世の中になるお手伝いをこれからもしてまいります。

取材・文/藤沢あかり